14.危険地帯

危険その1
1997年秋に初めてジャカルタに来ました。3ケ月の予定でホテル住まいをし営業所の一角を借りて仕事をするのです。たまたま同じ便できた会社の知り合い2人と3人で到着したのですが、最初からトラブル発生です。同行のトランク1個がヒビ割れており、それをクレームしに行ったのを待つことになりました。彼は海外出張が多くこのようなこともタビタビなので気軽にクレームしに行ったようです。が、なかなか帰ってきません。クレームしている部屋を覗くと、「いま金を払え」「いや、それはできない」で押し問答をしており、どうやら航空会社に責任があるのは互いに諒解したけれど、どうやって金を支払うかでモメているようです。何やら紙に書いてもらって出てきたのは30分以上もかかってからでした。もう空港内はガラ〜ンとしており出迎えの人や白タク運転手も見あたりません。
こんなに待たせてもゴメンの一言もなく、ムカッ腹を立ててジャカルタ生活が始まりました。

たまたまこんな事件のため出くわすことはなかったのですが、ジャカルタの空港で気を付けなければいけないのは @白タク運転手 A荷物持ちのポーター です。@はボッタクリで有名だし、トランクの名前を読んで出迎えになりすますこともあります。Aはターンテーブルから荷物を下ろすととたんに近づいてきて勝手に持って行こうとします。これを追い払わないとチップと称して法外な金を要求します。これはジャカルタに限らずの話ですが。
2回目に入国したときは同僚と2人で冒険してみようと白タクに乗ってみました。何も自分から危険に飛び込まなくてもいいのにねえ。空港の駐車場にとめてあるライトバンを前にして3人で値段交渉です。最初は15万RPと言ってたのが段々さがり、10万に。8万ならOKと思っていたのですが、同僚もウンザリしてきて10万で高速代込みで決まりました。でも、夜の高速を走ってヘンな場所に連れていかれてはアブナイので2人ともずっと起きて方角を確かめています。ところどころに見たことのあるビルや看板があり、すこしづつ心配が減ってきて、ホテルの看板が見えてようやく安心しました。それにしてもツカレタ〜〜。それ以来白タクには乗っていません。


翌日からさっそく仕事が始まったのですが、どこへ行くにも会社の車かタクシーを使い、ゼイタクな事はヤメロと文句を言うと、イヤこれがジャカルタの普通のやりかたですと。なにしろ、大通り(8車線)の向こう側のレストランへ行くのに車で10分もかけるのですから。たしかに通りを歩く人影が少ないような気はしますがまるっきりいないというわけでもありません。
数日たってから営業所長と食事をしながらそのことをうかがうと、あっさり、歩くのは危険ですと。バス停・陸橋など人の多い場所はスリが多いとのこと。インドネシアに長く駐在しているA氏ですら強盗に2度もあっており、それもサリパシフィックホテルから隣のスカイラインビルまでの歩いて20mほどの距離の間だというではありませんか。これは襲われた本人にも聞いた話です。
私がいたちょうどその頃はスハルト政権末期でジャカルタ市内は落ち着かない雰囲気でした。日本人だけでなくインドネシア人も寄ると政治の話をするのですが、まだ秘密警察が強く密告者もどこにいるかわかない状態なので運転手と車の中でその手の話をしていたのを思い出します。日系人が強盗に襲われたなどという話は運転手仲間のいい話題なわけでよく話してくれます。ある日本人がタクシーに乗っているとだんだん暗い道に入りいつのまにか前後を別の車がはさんで強盗にあった、とか、レストランで食事をしていると20人以上の強盗団がやってきてそこにいあわせた全員が金目のものを取られたなど。新聞に載っていた話もあれば載っていない話もありどこまで本当かわかりませんが。インドネシア人はウワサ話が大好きですからね。

危険その2
ある日、昼休みに会社を出て同僚と2人で散歩しました。大通りぞいに進んでいくと河があり何本か橋がかかっているのが見えます。2本目くらいを渡ると住宅街になり家の前で車を洗っていたり子供が遊んでいたりします。そこをすぎると突然に道が狭く曲がりくねり下町のようです。塀に洗濯ものがかかっていたり、ヨロズ屋でバーサンが座っていたり。塀の隙間から銀行の駐車場が見えたのでその近道を通って時間内に戻ることができました。なんということもない話なのですが、してはならない事だったらしく後で注意されました。そんなに危険な場所じゃないことくらいわかりそうなのに、とは言わず黙って聞いておきましたが。日本のスラムだって見掛けはキタナクて危険だけど実は普通の人が住んでいるだけで、場違いな上等の身なりをしてればそりゃアブナイけど。

危険その3
日曜日にヒマだったのでホテルの近くの市場へ出かけました。通りにテント屋根をあげていろんな物を売っています。服・下着・果物・古タイヤ・ラジカセ・刀・鉄砲・ジュース・何かわからない巨大なダンボール箱・本当に雑多なものです。なぜ鉄砲(ライフルらしい)を売ることができるのか?一体誰が買うのか?ところが弾を売る店が見当たらないのです。会社のモノ好きがここで鉄砲を買ったそうで、そういうバカものが居るので商売になるんでしょうね。それにしても飛行機に積むことができないのに一体どうするつもりだったのでしょうか?

危険その4
どこへ行くのも車(経済的余裕のある人から順に、社用車・自家用車・タクシー・3輪タクシー・バス)なので町には車があふれています。社用車があるとはいえ私用で使うのはちと気が引ける(運転手の口が軽いので危険)のでよくタクシーを利用しました。最初は気にもせず手近のタクシーを捕まえていたのですが、運転手が強盗に変身する話を聞いてから注意するようになりました。こんなパターンです。
会社から直帰→ホテル社用車
会社から直行→レストラン→ホテル社用車
会社から直行→レストラン→飲み屋→ホテル社用車ータクシー
ホテル→レストランブルーバードタクシー
ホテル→飲み屋シルバーバードタクシー
レストラン→ホテルブルーバードタクシー
飲み屋→ホテルシルバーバードタクシー
ブルーバードタクシーという信頼のおけるタクシー会社があり、そこの普通クラスがブルーバード、高級クラスがシルバーバード(ただし車の色は黒)です。もちろんもっと高級なゴールデンバードやハイヤーであるプリンセスもあります。要は深夜に繁華街に出入りするときはシルバーバードを使うということです。
飲み屋で帰る時にシルバーバードを呼んでもらい店の前から乗り込めばすこしでも危険は減りますから。そこまでして飲み屋に行かなくても、という批判はありましょうが...

危険その5
飲み屋でさあ帰るから勘定してと言って出てきた請求書はホントにデタラメです。
レストランならときどき間違いがあるのですが飲み屋では必ずヘンなのです。それも必ず多いほうに間違っていて、あれは故意に請求してバレなければよい、というヤツですね。私のように自腹で行く人にとっては腹立たしいものです。たとえば、ボトルをキープしてある店で、3時間オネーサン1人がついて、テーブルにはフルーツとツマミが1皿づつ来ます。請求書には
オネーサン25万RP
フルーツ
ツマミ
サービス料3.3
税金4.0
合計40.3万RP
などと書いてあります。
30万RPかなと思っていたのに10万ほど高いです。そこでマネージャを呼びなぜこの明細なのか説明させると、オネーサン代=5時間x5万RP、フルーツ代=2皿x3万だと。おれが座ったのは3時間だけで、どうして5時間もつける?と聞くと、2時間分はエキストラで自動的に付け加える習慣だといいおる。本当に習慣なら払ってやるが、そうでないなら絶対に払わん、証拠を見せろ、とゴネると他の客の請求書を持ってきて、ほらダンナ、同じように請求してますと。あとでいろいろな人に聞いたが2時間はどこの店でもつけておりまだ良心的なほうだそう。次にフルーツは1つしか食ってないのに2皿とはどういうことだ?これにはアッサリ、間違ってました。でも謝ることはしなかったなあ。見つかっちゃったか、しかたない、というくらいでしょうね。最後にフルーツ分3万を引こうとするので、ちょっと待て、サービス料も税金も引けというとこれもあっさり引いてようやく落着。別にケンカ腰で交渉してるんじゃなく、淡々とやるんですが、毎回だといいかげんウンザリして来るんです。(それがネライ?)30分も帰るのが遅くなってしまった。ア〜無駄な時間だった!

危険その6
ジャカルタに着任して1ケ月くらいたち一人であちこち探検に出かけだした頃、まったく出歩かない同僚を連れてコタの中華街に行きました。ジャカルタで唯一の寺と露店を見てみることに。僕はすでに探検済みでしたが。同僚はまわりから散々にオドカされていたらしく、コタは恐い場所だと思い込んでいたようで、狭い路地や雑居ビルに入ったこともないそうです。腹が空いたので、小さな店(さすがに露店はチョット...)で適当に食べることにしました。焼ギョーザを注文するがないらしく、焼ソバ・焼メシで我慢。飲み物は冷たいビールと言ってから気がついて、冷たいビールはあるかと聞くと「氷を入れる」とのたまう。あわてて氷はイラン、ぬるいままでいいから持ってこいと。ウッカリ氷入りなんて頼むととんでもないことになりますから。
ダベリながら食べていると、タンバリンを持ったジジーがやってきて目の前でシャンシャンやり始めました。まわりにいた華人はニヤニヤしながらこちらを見ています。オッパラってもかまわないのですが、小銭をやればどこかへ消えるのでポケットから硬貨をつまんでやりました。べつにジジーが危険なわけはありません。
結局、ドラマチックな事件もなく僕たちの小さな冒険はアッサリ終わってしまったのですが、危険はその晩から同僚にふりかかりました。その晩は何度もトイレに行くハメになり下痢が数日間は続いたようです。僕のほうはまったくどうもなく、一体何が原因なのか判然としません。食べ物なのかぬるいビールのなのか、それとも道でつまんだサラックなのか?
4つ星ホテルに泊まっていたのですが、同僚の予防生活はこんなのです。
洗面:水道水
歯磨き:アクア
朝食:ホテルのビュッフェ
秘書のいれてくれるインスタントコーヒー
昼食:事務所ビルの日本食喫茶店
秘書のいれてくれるインスタントコーヒー
夕食:ホテルの日本食レストラン
歯磨き:アクア
とまあ、滅菌状態ですから、こりゃあ違うものを食べれば下痢も当然でしょう。
僕はいろんな店で飲み食いしますが、生物をさけるだけで火さえ通っておればOKです。ワルンや屋台や弁当も食べましたが、どれもおいしかったです。
日本で除菌なんたらにあふれた生活をしていると海外に出たとたんにシッペ返しをくらうのです。
次へ
戻る
目次