20.フランス語
先日、朝食用にもらったジャムのラベルに何が書いてあるかわかんな〜〜い、と家内が持ってきました。
フランス製のジャムで、もともとのフランス語ラベルの上から輸入会社の日本語ラベルが貼ってあって、どうもフランス語の内容と違うようです。
[日本語ラベル]
原材料:イチゴ・野イチゴ・砂糖・キビ糖・レモン果汁・ゲル化剤
内容量:190g
賞味期限:2008年6月30日
保存方法: なんたらかんたら
使用上の注意:あーだこーだ
原産国名:フランス
色素および保存料は一切使用していません。
ビンは割れ物です。開栓時には注意してください。
[フランス語ラベル]
原材料:100gにつき50gの果物を使用(そのうちイチゴ76%、野イチゴ24%)
砂糖・キビ糖・レモン果汁・ゲル化剤
砂糖は100gにつき60gを使用(50+60=100?)
内容量:200g???なんで違うの
内容についてイチャモンをつけたくなりますが、本題はそれではありません。
フランス語の辞書を探していて、大学でのフランス語授業のノートが出てきたのです。他のノートはまったく残していないのに、なぜかこれだけが。当時の阿部教授は大学の名物教授で、ウルサイけれども大変に熱心に授業をし、それに惚れて4年間ずっと受講する学生が大半でした。ページの間に夏休みの宿題と一緒に送られてきた手紙がはさまっていました。当時は読み飛ばしたのでしょうが、今もう一度読んでみると味のある文章です。最も油ののりきった時代の熱っぽさが感じられます。その熱意に応えることもなく4年間を終わってしまったのが残念です。ともあれ、教授の文章をそのまま紹介します。(教授が普段からこんな言葉でしゃべっていたわけではなく、書き言葉では先生の趣味が濃く出ているだけです)
- - - - - - - - - - - - - - - - - - 夏休みのフ宿題について - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
残暑御見舞い申し上げる。その後、如何に休暇を過ごしておられるだろうか。愚生の方には特に貴君の耳に入れたいような面白い夏の咄しとてないが、まずは無病息災、平凡ながらも、律調ある生活を楽しんでいる故、御放念されたし。「夏」を訓で「なつ」と読むのと「か」と音読するのとでこの季節の肌ざわりが少なからず異なってくるのも、「ことば」の不可思議なわざの一つではなかろうか。つまり、後者のように「か」と音で読むと、同音の「火」が直観されるし、いっぽう「か」行のもつ固い音色が、なにか、金床の上で叩かれる真っ赤に焼けた鉄の如き炎気を連想さすのである。が、これはつまり中国風であり大陸的な夏を語るのではなかろうか。それに対して前者の日本本来の言い方である訓で「なつ」と称ぶと、その「つ」の方の音にあつさを感じても、それが「「な」の方、たとえば「なぐさめ」「なでやか」「なじみ」「なさけ」「なつかしさ」「なまける」「なだらか」等々ときわめて柔らかな、まるみを帯びた語が次から次へと出てくるそういった「な」で包まれてしまうのである。つまり朝顔に宿る露の中にこそ日本の伝統の夏が在るように感じられてならない。言い換えれば、日本の夏は急激にはじまり、しかもかたくなに続く蒼穹を背景に連なる峻嶺のようなものではなく。春分と秋分の二点を結ぶ水平軸上に描かれた季節の波動のほんの頭にあたる部分でしかないのではないか。事実、此処洛中では、大文字の火送りもすめば、夏の曲線ははや秋への下降をたどっていることが、はっきりと感得できるのである。入道雲も漸く流れ雲に、熊蝉も法師蝉へといったように、自然の形、色、音が変わっていく。いや貴君自身も、心のはしで、既に今年の夏の暑さをなつかしいものと感じておられるのではなかろうか。さてこうした季節の節に応じるべく、そして燈火親しむ秋の生活へのさそい水として、仏語宿題を八月中旬に発送するのが愚生の累年のしきたりとなっている。次の注意事項を読み、愚生の期待に敏感に応えられるようお願いする。
一、答案返送は整理の都合うえ、必ず左記の住所に郵送すること。学校で提出されても受け取らないから。
京都市右京区・・・
一、締切日 九月十日。書留、速達不要。旅行、アルバイトの関係で入手が大変に遅れた場合は、その理由を簡単に説明して、やはり普通郵便で返送すること。
一、練習問題が二枚以上の場合でも必ず各紙に氏名を記入すること。
一、日頃の授業において真剣に希望することがらがあればこの機に遠慮なく開陳すること。
ともかく貴君の積極的な応答を期待している。またこの夏に体験した面白い話でもあれば聞かせてほしい。では健康に暮暮も留意して残り少ない休暇を充実した時間にされるように。再び教室でまみえる日を楽しみにしつつそれでは暫く御免。
昭和四拾五年八月 敬具
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今になって読み返して先生が何を期待してたのか気付く始末です。
遅くなったけれどこの手紙の返事を出してみようかな?
あれ?先生は今も存命なのかしら?亡くなったという話は聞いていないけれど、ボケ老人になっていまいか、いらぬ想像をしてしまいました。ネットで検索してみると...
ヤッパリ(というか意外にもというか)御健在でした。
当時は僕の大学と女子大と2校で授業をされていたのですが、何とその女子大で現在も教えておられます。
いったいいくつまで教壇に立つつもりなのか聞いてみたいものです。
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