台湾114. 日月潭水力電気工事

ふとしたことで(古書店からのメールに載っていた)戦前の台湾での大規模な建設工事記録が売られているのを知り
ポチッとしてしまいました。
もっとも、あまりに高価なので我が家の財務大臣の許可をもらいましたが。
概要はこんなものです。
   戦前の日本時代の台湾で大規模なダム・水力発電所・台湾全土への送電設備を
   計画したが世界恐慌のため一時中断したあと、ようやく再開したもので
   工事当事者である台湾電力がその工事の全貌を記録として残した。
   入手したのはその記録作成委員会での途中文書である。(同じものが作成されているはず)
   最終完成図書を台湾総督府資料や台湾大学図書館で探したのですが見つけていません。


日月潭とは何か? 知らなくて当然です。台湾フリ−クなら知っていますが。
台湾中央部にある風光明媚な湖です。超高級リゾートホテルThe Laluもあります。1泊5万円



左端には南投市、左上には台中市、湖の北には埔里鎮が見えます。
湖と南投の中間には集集鎮が。阿里山・玉山はさらに南方になります。
高鉄(新幹線)台中駅からバスで1時間半


日月潭の面積は8km2、海抜700mの高地です。
湖の北東に「九族文化村」、ここは原住民邵サオ族の故地なのです。
発電所は左側のダム湖のそばにあります。(一般開放)


西側からの航空写真です。


====================ここから文書の紹介です=====================


    「日月潭水力電氣工事誌」表紙には蔵書印「瀧口文庫」が押されています。
     この瀧口文庫とは何か調べて、多摩美術大学の瀧口修造文庫にたどりつきました。
     ところが、この文庫は美術関係の図書なので、今回の内容はそぐわないのです。
     答えは次のページにありました。

     印刷されたページの隅に「滝口委員専用」と墨書されています。
     これから推測できるのは、工事記録作成委員会ができて、滝口某はその委員だった。
     この文書はその委員会での検討用として作成されたものである。
     作成途上の証拠に、題字・序文・人物写真がまだできておらず白紙のまま。
     残念ながら委員会の構成・作成部数などは不明です。
     「瀧口文庫」の印は個人的な蔵書印です。
                 対蝶に名前を追加したものです
                 なぜ蝶なのか、@埔里は高山蝶のメッカ A瀧口氏の家紋が蝶
                 もちろんAでしょう。

文書はB5版・総672ページ、和紙に印刷、写真・図面を糊貼
訂正記入が各所にあり(事務局か滝口氏本人かは不明)、作成途上であることが生々しく表れている。


巻末にある年表でもって概要説明としましょう。
本社台湾電力株式会社のことの創立は大正8年7月明石総督、下村長官時代に係る。10万キロワットの日月潭水力電気工事を
根幹として、台湾産業の振興、台湾文化の開発、進んでは南方発展の国策を助長する使命を有し
台湾島民の生活に、進歩と幸福とを斎さんとする趣旨の下に創立せられた。
創立に当たり一度株式募集を発表せらるるや、申込数実に264倍に達したる程に、台湾島民並に関係者に
深き関心と期待とを以て迎えられたものである。政府が特に律令第1号台湾電力株式会社令を発して
之を半官半民の経営とし、幾多の特典を付与した所以も、其の任を全からしめんとするに外ならぬのである。
従って会社の沿革は日月潭工事の遂行と、完成後に於ける電力消化及採算の安固を旨とする日月潭発電事業史の反映とも称せられる。
以下同工事を中心として現在迄を4期に分ち、会社年表として概要を記述することにしたい。
第1期 起工期間(大正8年7月〜同11年6月 総督明石・田、社長高木)
         大正8年7月 会社創立と共に日月潭工事に着手す
         大正11年6月 欧州戦後の不況深刻となり、資金の調達容易ならず、工事一時繰延を決定
                第1次世界大戦 1914年(大正3年)から1918年(大正7年)
         この期間一般営業は順調なる経路を辿り、本期末電気需要1万6000キロ
                この年の需要の6倍の能力の計画だったわけで、計画立案時はきっと10倍以上だったはず
         年収500万円に達し営業基礎成る
第2期 休止期間(大正11年6月〜同15年12月 総督田・内田・伊澤・上山、社長高木)
         大正12年7月 工事繰延後鋭意再着手を企画し、興業銀行を通じ低利資金借入の議まとまり
         工事再着手の準備成る
         大正12年9月 関東大震災の突発にあい、財界の基調根底より覆され、資金調達絶望に陥った
         右事情に依り財界好転する迄暫く工事を休止することに決し、工事用諸設備を撤去し
         専ら既設工事の維持に努むることとなった
         この期間は営業資金枯渇し、電燈電力の拡張不可能に帰し、且電源不足のため
         大口需要は謝絶の外なきに立至り、収益の如きも幾分減退するの変態を呈するに到った
         大正15年12月 打続く財界の不況に資金調達困難なると、電力消化の見込立たざる為
         遂に日月潭工事の打ち切りを声明するに到った
         之と同時に工事用鉄道を総督府に買収を受けたる資金を以て、松山火力5000キロ、高雄火力1万キロ
         の電源補充計画を樹て、一面需要促進の為大正14年4月供給規則を改定し料金の値下及び
         新に電熱の供給を開始した
         本期末電気需要2万4000キロ、年収600万円に達するに到った
第3期 再興計画期間(大正15年末〜昭和6年10月 総督上山・川村・石塚・太田 社長高木・遠藤・松木)
         昭和3年3月 工事計画確保の為、米国ストーン・エンドウェブスター会社に委嘱し
               Stone & Webster(現存)は計画の基本は認めるも工事計画は改善点多いと報告
         その内容につき審査せしめ、其の適正なるの鑑定を得たのである。
         昭和4年3月 工事再興の議決し、第56議会に於いて工事資金の外債元利支払政府保証案通過し
         準備工事を進めた。
         昭和4年8月 内閣交迭後総督府より、準備工事の一時見合わせを命せられ、更に貴族院付帯決議の
               立憲政友会の田中内閣が昭和4年7月2日総辞職した理由が満州での張作霖爆殺事件にある
         趣旨により精密なる調査を進むることとなった。
         昭和5年10月 総督府より再調査命令を受けたので、各方面の権威に委嘱して、諸般の調査を進めた結果
         工事費等に多大の節減を成す成案を得た。又工事再興外債募集に付、総督の認可を受けた。
         昭和5年10月 外債募集の交渉開始
         昭和6年6月 外債成立
         昭和6年8月 本工事請負決定
             当然スッタモンダがありましたが本書には出てきません。
第四期 完成期間(昭和6年10月〜昭和9年6月 総督太田・南・中川、社長松木) 1行を手書き追加
         昭和6年10月 工事に着手
         この期間は火力電源の充実と共に、従来電源不足のため、抑圧の需要頓に増加し
         本期末需要5万1千キロ年収800万円に達するに到った。
             日月潭第1発電所の能力は10万kWH
         昭和9年5月 日月潭発電所完成と共に吾社本来の使命たる、電気事業に全力を掲すこととなりたる関係上
         瓦斯ガス事業は本社より分離し新設の台湾瓦斯株式会社に委譲した。
         昭和9年6月 工事竣工と同時に、7月営業送電を開始した。
         昭和9年12月 日月潭第2発電所建設資金充当の目的を以て、現在資金3449万円を4575万円に増加の議決し、準備を進む。
                第2発電所の能力43500kWH
                全島の発電能力は150000KWHになるはず。まだまだ需要は追いつかず台湾電力は苦労したでしょう。

工事記録はその後の昭和10年に完成したと推定します。
内容は専門的(政治・経営・電気・土木)な上に文語体・正字、一筋縄では理解できません。
いろいろな横道・脱線を繰り返して内容にたどり着けるでしょうか?それとも脱線しっぱなし?




目次
      かな使いはそのままに漢字のみ現用漢字に改めています。
      ( )内はページを示します。
      本文のすべてを紹介する(テキスト入力)は死んじゃうのでかなり省略します。
      私の興味ある部分だけを抜き出し、他の資料と比較しながら、ツッコンだりツッコマなかったり♪
      なので、かなりの量になるので一体いつ終るのやら・・・


第一編 概要
第一章 計画の発端
    日月潭選定事情(1)
    会社創立前の事情<4)
第2章 会社の創立
    法令の発布(11)
    創立総会(15)
    会社の使命(22)
第3章 工事着手より打切迄
    工事着手(27)
    工事繰延(28)
    社長の工事繰延声明書(30)
    休止事情(31)
    会社の休止声明書(32)
    工事打切声明(34)
    総督府の打切声明書(36)
    我社の打切声明書(40)
第4章 再興計画の経緯
    第1節 第56議会通過の再興計画
        ストーン・エンド・ウェブスター会社の調査報告(42)
        工事再興の決定(47)
        外債元利支払政府保証案議会通過(50)
    第2節 再調査に基く再興計画
        総督府の再調命令(55)
        日月潭工事に関する稟申書(56)
        工事進行見合命令の解除(63)
        外債発行条件(63)

第二編 建設工事
第1章 叙説
    創業当時の工事計画(67)
    再興及再調工事計画並に現計画(69)
    日月潭水力発電所計画概要(75)
    挿話(89)
第2章 土木工事
第1節 概説(99)
第2節 主要工事説明
   第1款 武界取水工事
       武界堰堤(104)
       取水口(124)
       洪水路(128)
       門扉操作用動力(133)
       付帯設備(136)
   第2款 水路工事
       水路工事の概要(138)
       隧道(138)
       開渠・暗渠及水路橋(145)
       日月潭落口(148)
       導水開渠及取水塔(150)
       水圧隧道(152)
   第3款 貯水池工事
       概要(155)
       水社堰堤(157)
       頭社堰堤(164)
       頭社堰堤地山補強(168)
       余水塔(169)
       排水塔及排水隧道(171)
   第4款 水槽・鉄管路・放水路其他
       水槽(176)
       鉄管路(177)
       放水路(180)
       水裡渓付替(181)
       発電所前橋梁(181)
第3節 起工準備並工事用諸施設
   第1款 起工準備
       水源地調査(183)
       地質調査(185)
       水量調査(201)
       防疫関係(209)
       用地関係(211)
       工事用材料と輸送関係(215)
   第2款 工事用設備
       専用鉄道(219)
       電気軌道(221)
       索道(224)
       砕石工場(231)
       鹿蒿砂採取場設備(233)
       司馬按修理工場(235)
   第3款 工事用動力設備(240)
第3章 電気工事
第1節 発電所工事
    一般概要(246)
    発電所建物(253)
    原動機設備(256)
    電気設備(262)
    雑設備(283)
第2節 一次送電線路
    概説(287)
    踏査及測量(292)
    創立当時の踏査測量(292)
    再興後の踏査測量(295)
    設計概要(297)
    工事状況(312)
    南部送電線工事(312)
    北部線補修工事(321)
    保安設備(327)
    保安通信設備(327)
    保線区(334)
第3節 一次変電・開閉所
    概説(336)
    台北変電所(343)
    高雄変電所(354)
    霧峰変電所(357)
    嘉義変電所(363)
    新竹開閉所(366)
    山上開閉所(367)
第4節 二次系統
    北部系統(368)
      計画概要(368)
      工事状況(370)
      瑞芳線(371)
      松山線(373)
      本社宮前町変電所間地中線(374)
      瑞芳変電所(376)
      本社変電所(378)
    中部系統(380)
      計画概要(380)
      工事状況(381)
      台中線(381)
      員林線(383)
      彰化線(384)
      彰化変電所(388)
    南部系統(389)
      計画概要(389)
      工事状況(391)
      屏東線(391)
      嘉義湾橋線(393)
      高雄第2火力線(394)
      高雄第2火力変電設備(395)
      屏東変電所(396)

第3編 計理
第1章 創立より工事打切迄
第1節 工事費予算
    工事費及所要資金(398)
    消化計画(401)
    収支計算(409)
第2節 株金払込及社債の発行
    第1回・第2回・第3回株金の払込事情(410)
    第1回・第2回・第3回及第4回社債発行事情(413)
第3節 工事の打切
    大正15年工事打切の経済的事情(416)
第2章 工事打切より再興工事案議会通過迄
第1節 工事打切後の措置
    第5回・第6回及第7回社債発行事情(419)
    工事再開理由(420)
第2節 再開工事予算
    工事費及所要資金(423)
    消化計画(426)
    収支計算(429)
第3節 再興工事案の議会通過迄
    電興の合併(431)
    嘉南大土州濁水発電所の買収事情(433)
第3章 再興工事案議会通過後工事竣工迄
第1節 再調工事費予算
    工事費(434)
    所要資金(440)
    消化計画(441)
    収支計算(449)
第2節 外債募集
    引受資本団との交渉(452)
    勅令第149号の発布(454)
    消極的担保条項問題(455)
    外債の成立(458)
第3節 為替の暴落と為替対策
    外債手取金の保管(461)
    外債の買入ドル手当(463)
第4節 第4回株金の払込と社債の低利借替
    第4回株金の払込事情(469)
    第8回・第9回・第10回社債借替(469)
第4章 工事費の内容
    日月潭工事完成に伴う工事費精算額(472)

第四編 庶務
第1章 役員
    現任役員(480)
    前任役員(481)
第2章 社員及傭人
    創立以来の社員及傭人の異動(484)
第3章 規程
    事務分掌規程(488)
    監理官処務規程(499)
第4章 工事監督組織
    監督組織の変遷(502)
    定員並に配置職員(517)
第5章 請負組織並職員配置
    工事請負方針(538)
    工区及工区指名者の決定(540)
    入札(547)
    請負者其他(547)
第6章 従業員の保健衛生施設
    施設概要(559)
    医務所(564)
    マラリヤ防疫所(569)

第五編 雑録
第1章 隧道全貫通及通水
第1節 隧道全貫通内祝(573)
第2節 通水報告式及慰霊祭(577)
第3節 台中に於ける招宴(585)
第2章 工事竣工祝賀会
第1節 台北に於ける祝賀会(587)
第2節 東京に於ける竣工報告会(607)
第3節 在職中死亡者追悼会(612)
第3章 会社令・定款
    会社令の全文(613)
    定款の全文(620)
第4章 調査報告書類・其の他
    永井博士の声明書(631)
    平林博士武界堰堤の地質調査報告(634)
    中山博士調査報告(637)
    物部博士報告書(639)
    平林博士頭社堰堤の地質調査報告(651)
    野口逓信技師の報告書(655)
    日月潭湖挿話(662)
年表